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2016年11月01日

富士宮市による、市民のための「世界遺産めぐり」ツアー。富士山にまつわる物語をたどる小さな旅へ。

世界遺産を回るバスツアーというと、特別めずらしくもないイベントのように聞こえる。が、富士宮市には、受付開始からわずか数十分で満席になってしまうほど人気の高い企画があるという。参加対象は富士宮市民限定なのだが、今回は取材のため、静岡市民である筆者も特別に参加させてもらいました。

バスに揺られて3つの世界遺産めぐりがスタート

2016年8月某日。集合場所は富士宮市役所。
本ツアーのコースは、世界遺産「富士山」の構成資産である
富士山本宮浅間大社→富士山五合目→白糸の滝。
富士山ではトレッキングをすることになっており、
40名ほどの参加者の多くが登山靴にリュックという山歩きスタイルだ。
全員が1台のバスに乗り込んで、いざ出発。

車内では、これから訪れる白糸ノ滝や富士山のパンフレットが配られます


このツアー、訪れる各所で専任のガイドさんが付き、しかも参加費は無料。
参加対象は富士宮市内在住の方なのだが、地元の名所をガイド付きでめぐるという経験は
地元に住んでいるとなかなかない。いや、ほとんどない。
たとえば私、静岡市の名所をガイドに案内してもらったことってあっただろうか? たぶんない。

バスで隣り合った人に話しを聞くと、ツアー参加の争奪戦がなかなかのものらしい。
「電話受付が8時30分に始まって、すぐに電話してもつながらなくて。
 15分後にやっとつながったと思ったら満員、それで前回は参加できなかったのよ。
 今回は参加できることになって、すごく楽しみにしていた」とのこと。
まるで人気アーティストのライブチケット並みである。


富士山本宮浅間大社では、市内の中学生がガイド役を務めてくれた。
脇には本職のガイドさんも付いているのだが、
この日のために練習を重ねてきたという中学生がグループごとに案内をしてくれる。

神事やお祭りの説明、建築のこと、天然記念物である池のことなど。
一生懸命な語りに、聞いているこちらも真剣になる。
自分たちの住む町に世界遺産があり、それを人に説明できるよう勉強し、
参加した私たちが「富士宮市ってすごいなあ」と思う。
この連鎖が、市の魅力や市民の誇りを高めることになるのかも、と感じた。

バスに乗り込んだ私たちに向かって手を振る中学生ガイドたち。ちょっと涙が出そう。



続いて、バスは富士宮口の五合目に向かった。
バスを下りると標高2400メートルの空気がひんやり。

ここでは世界遺産ガイドが付いてくれ、富士山の地理や環境の話を聞きながらトレッキングスタート。
六合目の山小屋を経て、宝永火口方面へ歩く。
火口のふちをゆるやかに歩き、樹林帯を抜けて五合目に戻る所要1時間30分くらいのコースだ。

富士宮口五合目から見上げた富士山。


参加者みんなで「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」を唱えながら進む。
六根清浄とは、目・耳・鼻・口・身体・心の6つを清浄にすべしという神道の教え。
昔の人は、登山の際に口々にこれを唱えたそうだ。

宝永火口は、富士山の斜面にあるぽかりとへこんだ窪み。
江戸時代に富士山の側火山「宝永山」が大噴火したときの跡である。
あいにくの曇り空、さらに霧も出てきてしまい視界はぼんやり。
すぐそばにあるはずの火口が見えない。ざんねん・・・


と思ったら、いっとき雲が切れて青空が見えた。
火口は非常に大きくて、カメラに収まりきらない!
写真の手前の斜面が、もっと深く広く続いておりスケールが大きいのでる。

富士山に降った雨は土中に染み込み、長い長い年月をかけて移動する。
やがて地表に現れて滝や川となるのだが、次なる目的地はその滝のひとつ、
これも世界遺産の構成資産である白糸ノ滝へ。
ここにもガイドさんが付いてくれ、軽妙なトークで笑いをとりながらの散策となった。


白糸ノ滝の崖上にある池、「お鬢水(びんみず)」。
白糸ノ滝には何度も来ているがここは初めて。
というか、こんな場所があることも知らなかった。

源頼朝がこの湧き水で鬢(髪)のほつれを直したのが由来だとか。
ガイドさんに聞かなければ知らないままだった。


浅間大社、富士山、白糸ノ滝を訪ねたのだが、
これは単純に「3つの世界遺産に行った」だけではない。

霊峰である富士山、その富士山をご神体としてまつる神社、富士山の湧水が流れ出す滝。
互いに関連しあう3つをめぐることで、それらをつなぐ歴史や時間をめぐり、
さらに未来につながる時間を旅したような、そんな充実感があった。
これが無料とは確かに人気が出るはずだ。富士宮市民がうらやましい。

◆世界遺産めぐり 実施時期は不定期。時期やコースは富士宮市のホームページを参照。

関連URL

富士宮市世界遺産課ホームページ

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