「野山を荒らすシカやイノシシを、おいしい食肉として活用したい。」柚野の猟師の取り組み。

全国的に深刻化している、鳥獣による農業被害。ここ富士宮市も例外ではなく、シカやイノシシ、サルなどが増加。牧草、稲、野菜の食害や農地踏み荒らしなどが問題になっている。対策として柵やワナの設置が進む中、獲物を食肉にするジビエという選択肢も。富士宮市・柚野(旧芝川町)で、「ゆのむら本舗」の屋号を掲げて猟師・百姓として活動している深澤さんに話を聞いた。
富士宮市の2014年度の農業被害額は、約1,150万円(産業振興部農政課)。
シカ、イノシシ、サル、ハクビシン、カラスといった鳥獣による被害報告のほか、
最近ではアライグマの目撃も増えている。
被害軽減のために市は捕獲者の増強をはかっているが、
狩猟に必要な免許の取得者が少なかったり、高齢化が進んだりという課題がある。
そのため、効果的なワナの導入、侵入防止柵の設置といった対策を打ち出している。
この状況下で、個人としてできることをしようと、
みずから狩猟に出て、肉の加工・販売に取り組んでいるのが深澤道男さんだ。

きっかけは、2010年に柚野の山に数百本の桜を植樹して、
子どもたちと「5年後にここでお花見をしよう」と約束したこと。
しかし翌年春、苗木はシカの食害を受けてほぼ枯れてしまっていた。
食害を目の当たりにし、柚野の山にこんなにもシカが増えているという現状に驚いた深澤さん。
シカは、森林地帯では木の皮を剥いだり新芽を食べたりして、木材資源や植生への影響を引き起こす。
また、農地では稲や野菜、タケノコなどの農産物に被害を及ぼす。
このまま放ってはおけないと狩猟免許を取得。
現在、一年間に約50頭のシカとイノシシを捕獲している。
鳥獣被害が起こる要因のひとつが、食物連鎖のバランスがくずれること。
約100年前、食物連鎖の上位にいたニホンオオカミが絶滅。
そのため、それまでオオカミに捕食されていたシカやイノシシが過剰に増加することになった。
狩猟には、このバランスを適正値に戻す機能がある。いわば、猟銃がオオカミの役目を果たすというわけだ。
また、農産地で過疎化が進む→放棄地が増える→鳥獣被害が増える→意欲の低下により過疎化が進む→放棄地が増える、といった悪循環も生じている。

(c)ゆのむら本舗
ところで、捕獲したシカやイノシシはどうするのか。
埋設処分か、または猟師が自家消費するためにさばくかの二択がほとんどだ。
さばいた肉を販売するためには食肉処理の許可をもつ施設が必要。
現時点で市内にその施設はないが、「捕獲した獲物の肉をきちんと商品化することで
猟師の数が増え、食害の減少につながるのではないか」と考えた深澤さんは、
静岡市清水区にある食肉加工処理業者に協力を依頼し、鹿・猪肉加工品の商品化に成功した。
ジャーキー、テリーヌ、サラミ、フランク、ベーコンなど、バリエーションは多岐に渡っている。

ジビエフランク¥600、鹿肉ジャーキー¥680ほか。
写真は、静岡市にあるレストランのギフトセット用のもの(※取扱いのない時期もある)

食肉としての鹿肉、猪肉はまだなじみが薄いが、ジビエ料理として見かける機会も増えている。
もちろん、農業被害の問題は個人の取り組みだけで解決できるものではなく、
さまざまな観点から、地域や行政が一体となって取り組んでいくべきもの。
食肉として活用しようという深澤さんの試みはそのほんの一端だが、
今後、流通や普及が進めば、新しい価値として地域の発展にもつながるはずだ。
深澤さんは富士宮産の原料を使った地ビール造りにも取り組んでおり、
「いつか富士宮に、ジビエ料理と地ビールを味わえる場所を作りたい」とのこと。
地域の課題解決と活性化が一緒にかなうその夢の実現にむけて、これからも注目したい。

ゆのむら本舗
TEL 090-1984-5899
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