2024年12月27日
【富士農場サービス/TOPICS】富士宮から世界へ!育種改良に情熱を注ぎ世界から注目を集める、桑原さんのブランド豚ストーリー

富士宮が誇る最高級のブランド豚・「LYB豚」と「富士のセレ豚(せれぶー)」をご存知でしょうか。どちらも記念日や週末に食べたい”ごちそう級”の豚肉で、一流の料理人からも支持されています。
この豚肉を生み出したのは、富士宮市に拠点を置く「富士農場サービス」と「TOPICS」で代表を務める桑原康さん。日本中の美味しい豚肉を辿っていくと、原々種豚の8割は桑原さんに辿り着くと言われているほど、美味しい豚肉の生みの親なんです。
今回はそんな桑原さんにお話を伺ってきました。
オスは「富士農場サービス」、メスは「TOPICS」。2つの企業が連携

1947年に先代が起業し1986年に創業した富士農場サービスと、2003年に創業したTOPICSは、養豚業界における世界的権威である桑原さんが、健康で美味しい豚肉を消費者に届けるために設立した養豚場です。
富士農場サービスはオス豚に特化し、人工授精用の豚精液の生産や販売、人工授精に関するサポート事業を手がけています。一方TOPICSが担うのは、豚生体の飼育から販売まで。標高約900mに位置する朝霧高原の農場のほか、北海道と岩手にも農場があり、豚の頭数は2社合わせて合計3500頭。民間の種豚農場としては最大規模です。

日本国内で流通している豚肉の99%は、ランドレース、大ヨークシャー、デュロックを掛け合わせた「三元豚」と呼ばれる品種。早ければ生まれて165日ほどで出荷でき、赤み部分が多い、いわば生産効率の良い豚です。
富士農場サービスとTOPICSの農場にいるのは三元豚ではなく、世界中から集めた7種類の原種豚。黒豚として有名なバークシャー、中国原産の希少種である民豚、そしてハンガリーの国宝とも呼ばれるマンガリッツァ豚(上記写真)など、その種類の豊富さは日本最多。出荷までに240日以上かかるなど生産効率が高くないヨークシャーという種豚もいますが、美味しさを重視し、高品質な種豚を生産しています。

桑原さんの仕事は、世界各地から選び抜いた原種豚を育成し、優れた血統を日本市場に送り出すこと。優れた種豚とは、丈夫で多産、肉質が良いという三拍子そろった豚ですが、本当に将来性のある豚を見抜くのは難しく、「AIにはとても無理ですね。やはり人間の感性が大事」と桑原さんは語ります。

また、優れていると思って購入した豚でも、その子どもはあまり良くないということもあるそう。「何百万円も投資して購入した豚なので、できれば子孫を残したいと思うもの。しかし良い血統を残すためには淘汰させなくてはいけないことも。損得勘定抜きで、良い血統だけを求めてやってきました」と話してくれました。
今ではその血統は日本中のブリーダーや生産者から信頼を集め、精液や雌豚を多数提供しています。さらに都道府県の試験場、大学など多くの公的機関から提供依頼が来るほど、信頼が厚いのです。
世界中から講演依頼や指導依頼の声がかかる、養豚業界の世界的権威・桑原康さん

富士山麓で養豚が始まったのは、明治初期。一時は「富士豚」として人気を博し、豚肉生産で県内1位になるほど盛んだった時期もあります。
桑原さんは、そんな富士宮市で、種豚農場の長男として生まれました。「養豚家の先輩方のお手伝いができれば」との思いから獣医学部に進学し、獣医師の資格も持つ桑原さん。高校時代から、部活にも入らず豚の病気について調べていたほど、筋金入りの豚博士です。
桑原さんは、そんな富士宮市で、種豚農場の長男として生まれました。「養豚家の先輩方のお手伝いができれば」との思いから獣医学部に進学し、獣医師の資格も持つ桑原さん。高校時代から、部活にも入らず豚の病気について調べていたほど、筋金入りの豚博士です。

獣医学部に進学し獣医として家業を継いでからは、世界中の養豚現場を見てみたいと、アメリカ、オランダ、デンマーク、ドイツなど養豚先進国の展示会や養豚場を見て回りました。当時、日本で豚の人工授精はほとんどおこなわれていませんでしたが、「普及したらより育種改良が進むのではないか」と考え、大学卒業後も研究生として大学に籍を置き、豚の精液の保存剤「マルベリーⅢ」を改良。従来の製品では2日しかもたなかったところを、1週間以上もつ製品の開発に成功しました。
そしてアジア初となる本格的な人工授精施設・富士農場サービスを設立。そのおかげで日本での人工授精の実施が飛躍的に増え、育種改良が容易に進み、さまざまな掛け合わせの豚が生まれるようになりました。
今では種豚や精液を販売するほか、人工授精関連の機材販売などのサポートも行なっており、講演や技術指導の依頼が来るのだと言います。

人工授精の普及や革新的な育種活動が評価され、農林水産大臣賞を9回受賞するなど数々の受賞歴を持つ桑原さん。大日本農会の緑白授有功賞を受賞した際には、秋篠宮殿下から表彰されました。その時に進呈された豚のイラスト入りのクリアファイル(上記写真右)は、なんと秋篠宮殿下のオリジナルノベルティ。こんなに可愛いアイテムを作るほど、秋篠宮殿下は豚がお好きなのだそう。
桑原さんが生み出した、美味しい豚肉の最高傑作たち

富士農場サービスとTOPICSの農場では、オリジナルの豚も生産しています。特に有名なのが「LYB豚」と「富士のセレ豚」。豚肉の美味しさは遺伝的要素が50%と言われていますが、世界中の原種豚の特徴を知る桑原さんが、それぞれの優れた遺伝的要素を上手に掛け合わせた最高傑作です。

「LYB豚」は、ランドレース(L)、ヨークシャー(Y)、バークシャー(B)という3品種の掛け合わせ。柔らかさと、上品で繊細な味わいが特徴で、審査が厳しい国の認定銘柄豚の1つです。

一方「富士のセレ豚」は、中国の希少種・民豚を交配させたパワフルな味わい。味が濃く、ビタミンB1が豊富で、その量はウナギの約2.5倍。しずおか食セレクション認定商品でもあります。
いずれも徹底された衛生管理と安全管理のもと、流通経路を明確にして育てています。
いずれも徹底された衛生管理と安全管理のもと、流通経路を明確にして育てています。

美味しい豚肉を生産するために桑原さんが大切にしていることは、豚の味までチェックすること。豚を出荷して終わりにするのではなく、どの掛け合わせの豚がどんな肉質になり、どんな調理方法が最適か、細かくチェックしています。
富士宮が誇るブランド豚を、飲食店や自宅で楽しもう

「LYB豚」と「富士のセレ豚」のおすすめの調理法の1つが、ステーキ。「LYB豚」のステーキは赤身部分が柔らかく、上品な香りで旨味が溢れます。良質な豚の脂は体に良く、融点が30度ほどと低いためさっぱりしていて、とろけるような美味しさ。口に入れた途端、甘みと旨味が広がります。
豚肉はタンパク質やビタミンB1を豊富に含み、ストレス緩和や疲労回復、そして全身の糖化を抑制してアンチエイジング効果もある素晴らしい食材なんです。

富士農場サービスとTOPICSが手掛ける豚肉は、卸売が70〜80%。ほとんどが首都圏に出荷されていますが、地元・富士宮市や周辺地域でも味わったり買えたりするお店があります。
販売店によっては「LYB豚」であっても別の名称で表記されているケースもあるので、ご注意を。
自宅で調理する際は、火を通しすぎず、表面の赤みがなくなる程度でいただくのがおすすめです。
●飲食店
・レストラン 志ほ川(富士宮市):LYB豚
・居酒屋 坂井(富士宮市):LYB豚
・富士宮焼きそば&ビストロ FUJIBOKU(富士宮市):LYB豚
・和風料理 花月(富士宮市):富士のセレ豚
ほか
●精肉店
・肉のむらまつ(富士宮市):LYB豚
・JAふじ伊豆ファーマーズマーケット う宮~な(富士宮市):LYB豚
・ヤスヒロ精肉店(富士市):LYB豚
・しずてつストア 新静岡セノバ店(静岡市):LYB豚 ※「富士ヨーク豚」の表記で販売
・静岡伊勢丹(静岡市):LYB豚 ※「朝霧高原豚」の表記で販売
・大石精肉店(静岡市):LYB豚
・Nicraic[ニクラック](静岡市):マンガリッツァ豚
ほか
※販売店は2024年12月時点の情報です。
今後は医療にも貢献。マイクロミニピッグの開発にも注力

桑原さんは、「この豚とこの豚を掛け合わせたら、こんな感じの豚が生まれる」と、すぐにイメージすることができるそう。その想像力からサイズも小さくできると考え生まれたのが、マイクロミニピッグ。生まれた時はティーカップサイズで、世界一小さい豚として特許も取得しています。
実は豚と人間は臓器が似ているそうで、マイクロミニピッグは医療実験用に開発されました。「豚が食料としてだけでなく、医療でも貢献していけたら」と桑原さんは語ります。
実は豚と人間は臓器が似ているそうで、マイクロミニピッグは医療実験用に開発されました。「豚が食料としてだけでなく、医療でも貢献していけたら」と桑原さんは語ります。

富士宮市が豚の産地として再び発展することを願い、将来を担う子どもたちのいる市内の中学校での食育の授業もおこなっている桑原さん。
授業の最後に伝えているのは、「年中夢求、無休、無給、夢中」という言葉。
新しい事業は、すぐにお金にならないことも多い。豚が相手の商売は休みもない。しかしそんなことは気にせず、夢を追い求めて新しいことに挑戦し、夢中で仕事をしていく。そんな桑原さんの姿勢に感動し、「将来農場で働かせてほしい」と握手を交わした中学生もいたのだそう。
日本人は、世界トップクラスの味覚を持つと言われています。その日本人に支持される豚肉は、きっと世界を魅了するはず。
快進撃を続ける桑原さんの豚肉が、世界中で賞賛される日も近いことでしょう。