2024年11月04日
【富士丸西牧場】富士山麓でのんびり放牧され、大切に育てられた牛たちが生み出すおいしい牛乳と、朝霧高原に伝わる素朴なミルクパン

生産される生乳は乳質が良く、内閣総理大臣賞をはじめとした数々の賞に輝いたこともあるほど。その牛乳を使ったミルクパンは、ほんのり甘くて懐かしい味です。
そんな富士丸西牧場の代表である佐々木剛さんと、牧場の敷地内で「パン工房あさぎり」を営む奥さま・千尋さんにお話をうかがいました。
牛ファーストを貫く富士丸西牧場

富士丸西牧場は、昭和27年に現在代表を務めている佐々木剛さんの祖母とその親戚が、長野県から2頭のホルスタインと共にこの地に入植したことから始まりました。
グループの中で一番最後に入植したため、もらった土地は一番端だったそうです。
グループの中で一番最後に入植したため、もらった土地は一番端だったそうです。

代表の剛さんは北海道の大学へ酪農を学ぶために進学し、卒業後は酪農ヘルパーとしてさまざまな農場で修業。23歳の時に富士宮にUターンし、数年後、先代からの「これからは自分が思った通りにやりなさい」という言葉とともに3代目として富士丸西牧場を引き継ぎました。

牛を健康に育て、良質な生乳を搾るために剛さんが大切にしているのは、できるだけ牛にストレスを与えないこと。そのために取り組んでいることの一つが、真冬と雨の日を除き、毎日放牧する「放牧酪農」です。
手間がかかるため、最近は行わない牧場も多いそうですが、牛たちは放牧が大好き。
富士丸西牧場のInstagramを見ると、放牧場まで嬉しそうに走っていく牛の姿を見ることができます。
「牛はグルメなので、おいしい牧草しか食べないんですよ。放牧地もしっかりと種まきして、おいしい牧草を食べられるように気を遣っています」と剛さん。

出生から最期まで同牧場内で育てる「全頭自家育成」も取り組みの一つ。
富士丸西牧場では、メスの子牛が生まれると、おばあちゃんになるまでここで暮らします。だからみんな群れに慣れていて、いつもリラックスしているんです。
数々の輝かしい受賞歴を誇る、富士丸西牧場の生乳

富士丸西牧場で絞った生乳は、富士宮市にある富士の国乳業に出荷し、パック詰めされ、主に富士宮市と富士市の小中学校の学校給食で提供されています。
「地元の子どもたちにぜひ富士宮市の牛乳を飲んでもらいたい」と、酪農家たちが出資し合って立ち上げた富士の国乳業。現在、剛さんが代表を務めています。
「地元の子どもたちにぜひ富士宮市の牛乳を飲んでもらいたい」と、酪農家たちが出資し合って立ち上げた富士の国乳業。現在、剛さんが代表を務めています。

給食で提供されている富士の国乳業の「ふじのくに 富士山ミルク」は、富士宮市にある5つの農家で絞った新鮮で良質な生乳のみを使用した牛乳。加熱処理を最低限にとどめているため、フレッシュで、牛乳本来の香りがします。牛の優しさを感じる、そんな味です。
剛さんは食育にも力を入れていて、毎年富士宮市と富士市の小中学校20校ほどを訪問。地元の酪農の素晴らしさを伝え、酪農業を次世代へ繋いでいきたい、という想いで、牛乳についての授業をしているのだそう。

富士丸西牧場は、関東周辺エリアにある1700軒の牧場でとれた生乳の質をランク付けする「関東生乳品質改善共励会」で、平成29年以降毎年上位にランクイン。静岡県内では1位になったことも。令和元年には全農酪農経営体験発表会で農林水産大臣賞、令和2年には農林水産祭 内閣総理大臣賞を受賞するなど、多くの受賞歴があります。
決して自慢しませんが、全国でもトップレベルの酪農スペシャリストである剛さん。美味しい牛乳をつくる秘訣を尋ねると、「30年前とは気候が違うので、コツコツとバージョンアップさせてきました。でも基本的なところ、循環については変えていません。無理しないのがいいのかもしれません」と語ってくれました。
千尋さんは酪農業界において女性も働きやすい仕組みづくりに取り込んできたことが評価され、令和4年度男女共同参画社会づくりに関する知事褒賞 チャレンジの部で褒章を受賞しています。
年間1100トンの生乳を出荷する富士丸西牧場

その際、牛の体を真横から見ることができるので、体調や反芻しているかなどもチェック。反芻はリラックスの証で、搾乳中はしないことが多いのですが、富士丸西牧場の牛たちは搾乳中も反芻しています。

搾乳機で4つの乳房から一気に搾ると、生乳が流れていくのが見えます。搾乳にかかる時間は、牛によって個体差があるそう。

牛は耳のタグの番号で管理され、機械に番号を入力して搾乳量を記録しています。牛それぞれのデータはクラウドで管理されているそう。牛舎もなかなかハイテクです。

搾乳を待つ牛たち。前の牛の搾乳が終わってゲートが開くと、自分で歩いてピットイン。本当に賢い牛たちに感動します。

搾乳後の牛たちにはおいしいエサが待っています。牛たちが食べやすいよう、エサを寄せる作業を1時間に1回行っているのだそう。
細かなことですが、これぞ牛ファースト。剛さんが大切にしている作業の一つです。
細かなことですが、これぞ牛ファースト。剛さんが大切にしている作業の一つです。
入植時代からこの地に伝わる、懐かしい味のミルクパン

牧場の一角にあるパン工房あさぎりでは、この地に受け継がれてきたミルクパンを販売しています。
販売をスタートしたのは平成8年からですが、レシピは代々受け継がれたもの。水は一滴も入れず、搾りたての放牧牛乳をたっぷり使って作ります。
現在は少しアレンジして、富士の国乳業の「ふじのくに PREMIUMヨーグルト」を練り込み、さらにおいしくなったミルクパン。千尋さんが一つひとつ心を込めて焼いています。
市の特産品開発補助金を利用して、老朽化したパン工房の設備の一部を新しくし、ロゴマークも作ったそうです。
販売をスタートしたのは平成8年からですが、レシピは代々受け継がれたもの。水は一滴も入れず、搾りたての放牧牛乳をたっぷり使って作ります。
現在は少しアレンジして、富士の国乳業の「ふじのくに PREMIUMヨーグルト」を練り込み、さらにおいしくなったミルクパン。千尋さんが一つひとつ心を込めて焼いています。
市の特産品開発補助金を利用して、老朽化したパン工房の設備の一部を新しくし、ロゴマークも作ったそうです。

戦後、水も作物もない朝霧高原で、唯一配給されたのが小麦粉だったそう。そこで剛さんの祖母が、その小麦粉と牛乳でパンを焼いたのがミルクパンの始まりです。
当時は酪農を営むどの家庭にも、オリジナルのパンレシピがあったのだとか。佐々木家伝統のミルクパンは、ほんのり甘くて優しくて、懐かしい。素朴で香ばしい香りがして、何個でも食べたくなる……そんな味わいです。
「このパンで命を繋ぎ、来る日も来る日も岩だらけの土地を開墾してくれたおかげで、今では富士山を背に美しい畑が広がる酪農地帯になりました。私たちの使命の一つは、この受け継いだタスキを次の世代に渡すことだと思っています」と千尋さんは話してくれました。

見た目がキュートな牛パンは、富士宮市で行われた富士畜産まつりの景品として作られたのが始まりだそう。ミルクパンの生地で作られていて、子どもはもちろん、大人も笑顔になってしまいます。
パンの製造・販売は予約制が基本ですが、近くのアーバンキャンピング朝霧宝山(富士宮市根原371-5)と、山梨県にある富士ヶ嶺おいしいキャンプ場(南都留郡富士河口湖町富士ヶ嶺696)の2か所では、毎週土曜日に販売されています。

愛飲する人が多い牛乳ですが、日本人の3人に1人は牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしてしまう乳糖不耐症とされています。
その要因といわれているのがタンパク質の一種であるベータカゼイン。ベータカゼインを含むか否かは、牛の遺伝子次第。ベータカゼインを含まない牛乳はA2ミルクと呼ばれ、乳糖不耐症でもお腹がゴロゴロしないそう。
富士丸西牧場でも検査をしたところ、ベータカゼインを含まない遺伝子の牛がいることがわかり、来年以降、このA2ミルクを製品化したいと考えています。さらにA2ミルクを使ったアイスクリームも登場するかもしれません。

都内に住んでいた千尋さんが嫁いで驚いたのは、酪農家たちは年配者でもすごくパワフルだということ。
「それは牛乳を飲んでいるからだと思います。牛乳は栄養素がバランス良く含まれた準完全栄養食。父は85歳ですが、まったくそのように見えず若々しい。牛乳の栄養効果は30年後に発揮されると言われているので、将来の体づくりのためにも、今から牛乳を飲んでもらえたら」と千尋さんは話してくれました。
富士の国乳業の牛乳は、富士宮市内の以下の店舗で購入できます。パンは予約制なので、電話またはパン工房あさぎりのホームページから注文してくださいね。
●販売店
・土井ファーム(富士宮市下条777-1)
・マックスバリュ各店
・JAふじ伊豆ファーマーズマーケット う宮~な(富士宮市外神123)
・富陽軒各店
・エスポット富士宮店(富士宮市矢立町927)